ふるかわひであきが、日頃の出来事をただ淡々と耽々と語ります。ただ淡々と耽々と毎日続けるブログです。くじけた時も、淋しい時も、裏切られても、だまされても、いじめられても、泣かされても、平気な顔して続けます。ブログは歌とカウンセリングとSC便りを超えられるか・・
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どんべんしょ 47

呪いのどんべんしょ 33

 

彼に気付いた吉崎はにっこりと微笑んだ。

 

吉崎「目が覚めましたか?実はさっき、京都教区の知り合いから連絡がありましてね。あなたのことをお母さんや施設の先生が探してらっしゃいます」

 

彼は驚いた。

 

吉崎「ちょうど明日、京都に行く用事がありましてね。今夜はここでゆっくりして、明日一緒に新幹線で京都に行きましょう」

 

無一文だった彼に、異論はなかった。

 

その日の夜は吉崎や信者の人たちが、焼き肉屋に連れて行ってくれた。

 

彼が倒れていた時に、お題目を唱え続けていたエピソードを語ると、みんなが感動してくれた。

 

学校の勉強など、難しいことは、とんと理解できない彼だった。

 

勉強会で法華経のことを熱心に説明されても、さっぱりわからなかったし、今でもわからない。

 

そんな彼だったが、たったひとつだけ確信できたことがある。

 

それはお題目の有難さ。

 

理屈ではなく、自分の体験として、心の底からそう思えた。

 

変な男に騙され、無一文になり、空腹で死にそうな時に、口をついて出てきたのは、大好きな歌ではなく、お題目だった。

 

これは頭で考える理屈ではなかった。

 

誰かに押し付けられたものでもなく、学校の授業で教わったものでもない。

 

お題目に助けられたという、彼の実体験に基づく確信だった。

 

翌日、吉崎と一緒に京都駅に着いた。

 

駅の改札には、母親と青年部の中山さん、それと古川が待っていた。

 

互いに挨拶を交わすと、吉崎と中山さんは教団の仕事に向かい、彼は古川の運転する施設の車で、母親と一緒に家に帰った。

 

次の日、施設に行くと、いつもと変わらない日常があった。

 

古川は相変わらずうるさいし、看護婦と栄養士は、たちの悪い魔女に見えた。

 

夕方になり、彼にとっては苦痛で長い一日が終わった。

 

あとは送迎バスに乗って、家に帰るだけだ。

 

その日は珍しく、古川が送迎バスに乗り込み、彼の横に座った。

 

さほど気にかけなかったが、自分がバス停で降りた時、古川も一緒に降りたのであわてた。

 

いつものように川に行くつもりだった彼は、仕方なく、まっすぐ家に帰ろうと思った。

 

彼が歩き出すと、古川が後ろから声を掛けてきた。

 

古川「自分、方向ちゃうで」

 

彼「はぁ?僕の家はこっちです」

 

古川「なんでやねん、いつものように川に行かなあかんで」

 

彼「僕は川になんか行きません」

 

古川は笑いながら「もうええて」と彼の右腕を引っ張った。

 

古川「最初にお菓子買わんとあかんやん」

 

彼「僕は糖尿病があるんで、お菓子なんか食べません」

 

古川「もうええて」

 

そう言って古川は、彼がいつも立ち寄るスーパーに彼を引っ張り入れた。

 

古川「銭の心配やったらいらんで。今日は俺がおごるから、何でも好きなもん買い」

 

彼はとまどった。

 

静岡で無一文になり、家出した罰として、追加の小遣いを母親にもらえなかった。

 

だからしばらくお菓子はあきらめないといけないと思っていたので、おごってもらえるという古川の言葉に、心が揺れた。

 

しかし、素直におごってもらってもいいのだろうか・・・。

 

あとでさんざん叱られるのではないだろうか・・・。

 

古川は自分を殴ったことがある。

 

父親といい、静岡の酔っ払いといい、自分を殴る奴にろくな人間はいない。

 

きっと古川にも、なにか裏があるに違いない。

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月26日

ふるかわひであき

どんべんしょ 46

呪いのどんべんしょ 32

 

彼が倒れていたのは、昔、青年部の合宿で集まった教団の施設だった。

 

施設の入り口で寝ている彼を発見した吉崎は、驚いた。

 

目の前で寝ている男が、まるで寝言のように「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・」とお題目を唱えていたからだ。

 

同じ信者に間違いない。

 

吉崎が彼に声を掛けると、寝ていた男は薄目を開けて、「何か食べたい、何か食べたい・・・」とつぶやいた。

 

起き上がれるか?と聞くと、男は返事もせず、よろよろと立ち上がった。

 

吉崎は男の肩を抱えながら、施設の食堂に連れて行った。

 

朝早くて、まだ誰も施設に来ていない。

 

厨房の冷蔵庫を開けると、野菜や肉など、すぐに食べられるようなものは何もなかった。

 

ふと冷蔵庫の横を見ると、リンゴ箱があり、リンゴがたくさんあった。

 

吉崎が、「りんごしかないから、今剥いてあげる」というと、男は吉崎を押しのけ、リンゴにガリガリとかじりついた。

 

男はまるで野良犬のようにガツガツとリンゴを食べ続け、あっという間に8個もたいらげた。

 

一息つくと、男は水道の蛇口をひねり、そばにあったプラスティックのどんぶり茶椀に入れて、三杯飲み干した。

 

彼と吉崎は、食堂の椅子に向かい合って座った。

 

吉崎「よっぽどお腹が空いていたんだね。大丈夫?」

 

彼「はい、大丈夫です」

 

吉崎「あなたは誰ですか?」

 

彼はいままでの経緯を淡々と吉崎に話した。

 

彼にしては珍しく、時系列に沿って、正確に、そして正直に事の顛末を話すことができた。

 

吉崎「そうですか。それはひどい目に遭いましたね。あの海岸からここまで、遠い道のりをよく歩いて来られましたね」

 

彼には、どこをどうあるいて来たのか、自分でもさっぱりわからなかった。

 

ここが昔、青年部のみんなと来たことのある施設であることも、今の今まで知らなかった。

 

吉崎「私が声を掛けた時、あなたはお題目を唱えられていました。もしそれがなかったら、私はあわてて警察に連絡していたと思います」

 

吉崎と彼が話をしている間に、調理員が厨房に来た。

 

吉崎が事情を話すと、りんごだけでは足りないだろうと気遣ってくれて、あり合わせの食材で野菜炒めを作ってくれた。

 

彼はそれをまた全部、ガツガツとたいらげた。

 

その食欲にみんな驚いた。

 

吉崎が年齢を聞くと20歳を超えており、もう大人である。

 

自分の意思でここまで来ているので、彼の母親に連絡するという発想はなかった。

 

お腹が満たされ、疲れが一気に出た彼は、ひどい眠気に襲われた。

 

それを察した吉崎が、施設の和室に研修者用の布団を敷いてくれた。

 

布団に入った途端、彼はすぐにいびきをかきだした。

 

どれくらい眠っていたのだろう。

 

彼が目覚めると、その隣で吉崎が本を読んでいた。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月25日

ふるかわひであき

どんべんしょ 45

呪いのどんべんしょ 31

 

とりあえず彼は歩き出した。

 

どこへ向かって歩いて良いのかなど、なにもわからなかった。

 

歩けば歩くほど腹は減るのだが、それでもじっとしているよりも気が紛れた。

 

海岸沿いの遊歩道を歩いていて、ふと海の方をみると、空には星が奇麗に輝いていた。

 

京都では決してみることのできないような、でっかい星達が、チラチラではなく、ギラギラと輝いていた。

 

遊歩道のベンチに座り、星を見上げた時、富士山を見た時と同じような感動を覚えた。

 

彼の口から、自然に歌がこぼれてきた。

 

♬みあげてごらん よるのほしを ちいさなほしの ちいさなひかりが ささやかなしあわせを いのってる♬

 

♬ほしはなんでもしっている ゆうべあのこがないたのも かわいいあのこのつぶらな そのめにひかる つゆのあと うまれて はじめての あまいキッスに むねがふるえて ないたのを♬

 

彼は知っている星の歌を次から次に歌った。

 

歌を歌っている時、空腹が紛れたが、それにも限界はあった。

 

やがて彼はまた、歩き始めた。

 

公園を見つけては、そこにある水道の蛇口から水をがぶがぶと飲んだ。

 

水で膨らんだ腹は、ほんの少しの間だけ気を紛らわせてくれたが、すぐにまた腹の虫が鳴いた。

 

どれくらい歩いただろう。

 

彼の意識がだんだん朦朧としてきた。

 

彼の頭の中で、小さい時の思い出が次々に蘇ってきた。

 

嫌な思い出、楽しい思い出、数えきれない思い出が走馬灯のように彼の頭の中に浮かんでは消えていった。

 

彼は自分の顔が一瞬、さっと冷たくなったことに驚いた。

 

彼は気を取り直すために、歌を歌おうと思った。

 

こんな時は元気が出る歌に限る。

 

だけど、彼の口から歌は出て来なかった。

 

いくら絞り出そうとしても、何も歌えなかった。

 

それでも彼は歩き続けた。

 

何か歌うんだ、何か歌うんだ・・・。

 

そんな彼の口から、やっと言葉が出てきた。

 

それは歌ではなかった。

 

彼はただ、その言葉を言い続けた。

 

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・」

 

なんで自分が今お題目を唱えているのか、彼にはわからなかった。

 

自分で唱えているのかどうかもわからなかった。

 

自分の声のようで、自分の声でないような気もした。

 

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・」

 

彼は歩き続けた。

 

いや、歩いているというよりは、船か何かに乗せられて、穏やかに運ばれているような感じがした。

 

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経・・・」

 

そこがどこだかわからなかったが、何かの建物の壁に寄りかかって、そのまま彼は気を失った。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月24日

ふるかわひであき

どんべんしょ 44

呪いのどんべんしょ 30

 

店の外に出ると、男は彼の肩をつかんだまま、店の裏にあるごみ捨て場に連れて行った。

 

男はゴミ袋の山の中に彼を突き倒した。

 

男「お前みたいな非国民はゴミだ!ゴミはゴミと一緒に運ばれて燃やされればいいんだよ」

 

そう言って男は彼に、空のビールケースを投げつけた。

 

彼のおでこにビールケースが当たった。

 

痛みを感じ、彼はそこを右手で押さえた。

 

ヌルっとした感覚がした。

 

右手を見ると、血が付いていた。

 

彼の身体がわなわなと震えだした。

 

男は笑いながら彼に背中を向け、立ち小便をした。

 

彼の頭の中で、言い知れぬ怒りの感情が湧いて来た。

 

彼「くそが!くそが!くそが!」

 

その声を聞いて男が彼を睨みつけた。

 

男「お前、誰に向かって言ってんだよ!」

 

その瞬間、彼は男に体当たりした。

 

ドカっという鈍い音がして、男がゴミ袋の山に上に転がった。

 

彼は男の髪の毛を引っ張り上げ、ゴミの山から路上に引きづりだした。

 

男は悲鳴をあげて抵抗したが、興奮した彼のバカ力にはかなわなかった。

 

彼は男を押し倒し、馬乗りになってその顔を拳で殴りつけた。

 

「くそが!くそが!くそが!」

 

男は「助けてくれ〜」と泣き叫んだ。

 

自分を押さえることができない彼が、男の頭を持ち上げ、コンクリートの道に叩きつけようとした時、強い力が彼を男から引き離した。

 

角刈りで小柄な男は彼に「それ以上やったら死んじまうぜ!」と言って、彼を羽交い絞めにした。

 

身体は小柄だが、めっぽう力は強く、彼はあっという間にねじ伏せられた。

 

その男は「店の中からあんたらの様子を見ていたが、あんた、悪い男に引っ掛かったな。金のない酒飲みがよく使う手だ。あんた、カモにされたんだよ」と言った。

 

遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 

その男は「きっと店の主が電話したんだ。いいから早く逃げな。俺も厄介なことは嫌いだからこのままいくぜ」

 

彼も警察は好きではない。

 

その男の言う通りに、彼はその男とは逆の方向に走って逃げた。

 

気が付けば彼はまた砂浜に来ていた。

 

目の前には青い海が広がり、風が気持ちよく吹いていた。

 

「あ〜気持ちいい。気持ちいい」

 

彼の立ち直りは驚くほど早い。

 

さっきの流血事件など、もう彼の記憶の中から消えていた。

 

たぶん、今の彼に警察が事情聴取しても、興奮して我を忘れていた時のことを、彼は何も覚えていないだろう。

 

しばらく海風に吹かれて、いい気分に浸っていた彼が現実に戻ったのは、一番星が出る頃合いだった。

 

彼を現実に戻したのは、空腹だった。

 

持っていたお金は財布ごと、あの酔っ払いに取られた。

 

もう京都まで帰るお金はない。

 

それ以上に、今の空腹を満たす食料を買う金もない。

 

彼は途方に暮れた。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月23日

ふるかわひであき

 

 

どんべんしょ 43

呪いのどんべんしょ 29

 

男はあっという間に二合徳利を空にした。

 

彼はそんなことにはお構いなしで、テーブルの上の料理を食べ続けた。

 

男は三本目の二合徳利を注文した。

 

お腹が満たされ、冷静さを取り戻した彼は、早くひとりになりたかった。

 

適当に男の機嫌を取って、さっさと店を出ようと思った。

 

彼「僕、もう行きます。ごちそうさまでした」

 

男「何だって?この野郎!」

 

巻き舌で返事をした男を見て、彼の背中に冷たい汗が走った。

 

完全に目がすわっていた。

 

この酒くさい男の、嫌な目つき。

 

彼の頭の中で父親の顔が浮かんできて、体が凍り付いた。

 

男「お前、さっき、海ゆかばを歌ってたな」

 

彼「はい、ラジオで覚えました」

 

男「お前、あの歌の意味が分かって歌ってんだろうな?」

 

彼「はい、あの、意味はわかりません」

 

男「なんだと?意味も分からず歌ってたのか!」

 

彼「はい、すいません」

 

男「すいませんで済んだら、警察はいらねぇんだよ」

 

男はまた酒を飲んだ。

 

男「いいか、あの歌はな、この国を守るために死んで行った尊い人たちが歌っていたんだ」

 

彼はなんとか逃げ出すチャンスを伺った。

男「それをお前みたいな若造が大きな顔して歌いやがって。どういうつもりだこの野郎。責任取りやがれ!責任を!」

 

彼「どうすればいいんですか?」

 

男「まずここの支払いは全部お前だ。文句あるか?」

 

彼「・・・」

 

男「まさかお前、銭を持ってないんじゃないだろうな?ここに財布を出せよ」

 

そう言って男は彼の肩をつかみ上げた。

 

この男に父親と同じ匂いをかぎ分けた彼は、すっかり委縮してしまい、言われるがままに財布を出した。

 

男はそれを取り上げ、中の金を数えた。

 

男は店員に勘定書きを持って来させ、彼の金で支払った。

 

財布に残ったのは、小銭だけだったが、男はそれも巻き上げた。

 

彼「あの、さっきのタバコ代だけでも返してもらえませんか?」

 

男は血相をかいて彼を怒鳴りつけた。

 

男「なんだってこの野郎!あのタバコはお前が買ってきたタバコだろうが。お前が買ってきたタバコの金はお前が払うのが当たり前だろが!」

 

酔っ払いにまともな話が通じないことは、彼が一番よく知っている。

 

彼は逃げる算段をした。

 

興奮冷めやらぬ男は、彼の財布で彼の頬を殴りつけた。

 

カウンターから店の主であろう年配の男が出て来て、喧嘩をするなら出て行ってくれ、さもなければ警察を呼ぶぞ、と怒鳴った。

 

警察という言葉を聞いて、男は急に態度を変えた。

 

男「いやぁ、すまない、すまない。ちょっと酔っ払ってよ。親父さんよぉ、今出て行くから勘弁してくれよ」

 

そう言って男は彼の肩をつかみ上げ、外に引っ張り出した。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月22

ふるかわひであき

どんべんしょ 42

呪いのどんべんしょ 28

のれんをくぐり抜けて、格子戸をあけると、いらっしゃいませ〜という、女の人の元気な声が聞こえてきた。

都会のレストランで、この二人が入ってきたら、下手をすれば警察に通報されかねない風体だった。

しかし、漁師食堂の客は彼らのような人間ばかりだった。

みんな古着のような上着に、ズボン、長靴の男も多かった。

昼間だと言うのに、みんなコップ酒をあおっていた。

4人掛けのテーブルが6つあり、一番端のテーブルに二人が向かい合って座った。

男「お前、何か食えないものあるか?」

彼「なんでも食べます。好き嫌いはありません」

男「そうか、じゃぁ何でもいいんだな」

彼「はい、早く食べれるものがいいです」

男「わかった、じゃぁ俺が注文するからよ」

男は店の女の人を呼びつけ、料理を注文した。

男「まず刺身の盛り合わせだな、ブリとマグロは外さないでくれよ。あとは魚の塩焼きを何かみつくろってくれ。それから、あ、鯛の荒炊き、こいつは外せないからな。それと寿司の盛り合わせだ。あとはアジのフライに、茶わん蒸し」

彼のお腹の虫がまた鳴った。

男「あ、それから酒だ、酒。とりあえず二合徳利で二本。熱燗で頼むぜ」

店の中には有線放送の演歌が流れていた。

男「お前、タバコ持ってるか?」

彼「いえ、僕はすいません」

男「そうか、それじゃ悪いけど、奥のカウンターあるだろ、あそこにタバコ売ってるから、ショートホープを4箱欲しいと言って、もらってきてくれよ」

彼は言われるままにカウンターに行き、ショートホープを4箱下さいと言った。

さっきの女の人が出て来て、たばこを渡してくれた。

テーブルに戻り、たばこを渡すと、男は無言で受け取った。

テーブルに置いてあるマッチで火を点け、うまそうに吸った。

テーブルには大きな銀の灰皿とマッチが置いてあり、男はそのマッチで火を点け、うまそうに吸った。

男「お前、さっきから聞いていたら、関西なまりだな。どこからきたんだ」

彼「はい、京都から来ました」

男「へぇ、京都か。もう何年も行ってねぇな」

男はまたタバコを吸った。

男「それでお前、ここに何しにきたんだ」

彼「海を見に来ました」

男「へぇ、そんなもん見てどうするんだ」

彼「はい、ただ海を見て、歌を歌ったらすっとするんです」

男「へぇ、そんなもんですっきりするんだ」

男は少しイライラした顔をしながら、灰皿の中でタバコをもみ消した。

料理が運ばれてきた。

テーブルいっぱいに並べられたごちそうを見て、彼の眼は輝いた。

男「遠慮せずに喰えよ」

男の合図で、彼はまたガツガツと犬のように食べた。

その食べっぷりに男は驚いた。

男「お前、犬じゃねぇんだから、誰も取りゃしないから、もう少しゆっくり食えよ」

そう言いながら男は、おちょこではなく湯のみ茶碗に酒を注ぎ、一気に三杯飲み干した

(明日に続く・・・)

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月21日

ふるかわひであき

どんべんしょ 41

呪いのどんべんしょ 27

 

砂浜に立った彼は、久しぶりに見る海にこころが震えた。

 

あの日と同じように、海風が彼をやさしくなでて行く。

 

「あ〜、気持ちいい!気持ちいい!」

 

彼は大声で歌った。

 

♬まつばらとおく きゆるところ しらほのかげは うかぶ ほしあみはまにたかくして かもめはひくくなみにとぶ みよひるのうみ みよひるのうみ♬

 

♬われはうみのこ しらなみの さわぐいそべのまつばらに けむりたなびく とまやこそ わがなつかしき すみかなれ♬

 

浜辺にいた人たちは、いきなり大声で歌いだした彼に驚いていたが、あまりにも気持ちよさそうに歌うので、誰もが知らない顔をしてくれた。

 

彼は知っている海の歌を次々に歌った。

 

♬うみゆかば みづくかばね やまゆかば くさむすかばね おおきみの へにこそしなめ かへりみはせじ ♬

 

海を見ながら熱唱する彼に、男が声をかけてきた。

 

男は老人ではないが、若くもない。

 

ボロボロの紺色をしたセーターを着て、ベージュの作業ズボン、ビジネス用の黒い革靴を履いていた。

 

何日もそのままにしてある髭には白髪がまじり、その目はうつろで、髪もボサボサだった。

 

男がいきなり彼の肩をつかんだので、驚いた彼は思わず悲鳴をあげた。

 

男「お前、その歌をどこで覚えたんだ!」

 

彼は恐怖で声がでなかった。

 

男「聞こえないのかよ!その歌はどこで覚えたんだって聞いてるんだよ!」

 

彼「すいません、もう歌いません」

 

男「お前はバカかよ。だから、誰に教えてもらったのかって聞いてんだよ」

 

彼「すいません、ラジオで覚えました」

 

男はそれを聞いて、しばらく考え込んだ。

 

男「そうか、ラジオかよ。いや、驚かせてすまなかったよ。お前、気持ちよさそうに歌うよな。聞いているこっちまで気持ちよくなったぜ」

 

彼「ありがとうございます。ほんならさいなら」

 

人と関わるのを好まない彼は、立ち上がって、そそくさとその場を立ち去ろうとした。

 

男「おい、ちょっと待ちなよ!」

 

男がまた彼の肩をつかんだ。

 

彼「な、なんんですか?」

 

男「お前、腹減ってるんじゃねぇのか?」

 

そう言われて彼は、また腹の虫が鳴いているのに気が付いた。

 

彼「さっきからお前の腹の虫がグ〜グ〜鳴いてやがるから、そうじゃねぇかと思ったんだ」

 

男は急に愛想よくなり、彼の肩を抱いた。

 

男「俺が知っている食堂がすぐそこにあるからよ。案内してやるよ。なぁに、うまいけど、安いから、銭の心配はいらないぜ。さぁ、一緒に行こうぜ」

 

強引に誘われるままに、彼は男について行った。

 

浜辺の外れに「海風食堂はこちら」と書かれた看板が立っていた。

 

魚臭い漁村の中にその漁師食堂があった。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月20日

ふるかわひであき

どんべんしょ 40

呪いのどんべんしょ 26

 

M駅で中山さんに会ったのには驚いた。

 

なんて幸運なのだろう。

 

あの海は静岡だったのか・・・。

 

京都駅で切符を求め、駅員に勧められるままに新幹線に乗り込んだ。

 

彼の頭の中は、昨日のことなど、もうどうでも良かったし、これから自分がどうしたいのかもわからない。

 

立ち直りの早さが彼の長所でもあり、反省できないと言う致命的な短所でもあった。

 

今、こうして新幹線に乗っている。

 

彼にはただそのことの事実だけで良かった。

 

車内はガラガラで、ほとんど誰も乗っていない。

 

ふっと落ち着いた時、彼の腹の虫が鳴いた。

 

夢中で新幹線に乗り込んだので、食べ物も飲み物も買い込む暇がなかった。

 

彼は腹が減ると、気持ちが落ち着かなくなる。

 

イライラして、とにかく何か甘いものが食べたくなる。

 

財布の中を確かめると、まだ5千円以上ある。

 

彼は食べ物とお金があると落ち着く。

 

しかし今、お金はあっても食べ物がない。

 

イライラは増々大きくなった。

 

何か食べ物が落ちていないか探してみたが、どの椅子も綺麗に清掃されていて、床にもゴミひとつ落ちていない。

 

頭の中は甘いお菓子や食べ物でいっぱいだ。

 

彼のお腹は鳴り続けた。

 

その時、自動ドアの向こうから救世主が現れた。

 

「コーヒーにサンドイッチ、お弁当、アイスクリームにお菓子はいかがですか?」

 

彼には天使のささやきに聞こえた。

 

彼はお弁当、アイスクリーム、チョコレート、オレンジジュースを注文した。

 

食べ物を受け取った彼は、まるで野良犬のように、ガツガツとそれをたいらげた。

 

彼のお腹も、こころも満たされた。

 

どれくらい走ったのだろう。

 

普段から時計を持たない彼に、時間の概念はない。

 

ふと気が付けば、窓の外にあの日のあの山が見えた。

 

富士山だ。

 

あの日と同じように、彼のこころが震えた。

 

なんて大きな山なのだろう。

 

なんて綺麗な山なのだろう。

 

美しい風景が大好きな彼は、いつまででも富士山を眺めていたいと思った。

 

しかし、あっという間に富士山は車窓から消えた。

 

彼はいつか必ず富士山を見に行こうと思った。

 

ほどなく新幹線は熱海に着いた。

 

駅を降りると、旗や幟のようなものを持った客引き達が声を張り上げていた。

 

「え〜、お泊りの宿はお決まりですか〜!」

 

「〜〜亭にお泊りのお客様はこちらへどうぞ!」

 

何人かの客引きが彼を呼び止めたが、全部無視した。

 

駅前には商店街があり、生の魚や干物にした魚が売られていた。

 

商店街を抜けると、下り坂になっていて、その先に海が見えた。

 

海風が吹いてきて、ぷ〜んと潮の香がした。

 

彼は夢中で坂道を下って行った。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月19

ふるかわひであき

どんべんしょ 39

呪いのどんべんしょ 25

 

彼にとって施設に通うことは、苦痛以外の何物でもなかった。

 

古川という指導員が常「お前のためや、何も食ってないな?飲んでないな?」とつきまとい、看護婦は大嫌いな注射と血液検査を強要するし、栄養士は豚も食わないような食事を食べさせる。

 

地獄のような毎日が続いた。

 

そんな彼のストレス解消は二つあった。

 

ひとつは、帰りのバスを降りてから甘いものを買い込み、散歩をして、気持ちの良い景色を見ながら歌を歌うことだ。

 

彼のストレスと不満は、暴言を吐きながら、川に石を投げ入れるたびに、石と一緒に川に沈んだ。

 

もうひとつは、母親に暴力を振るうことだった。

 

最初は施設で一日がんばったことを、甘えたい気持ちでぶつけていただけだったが、だんだんとエスカレートして行った。

 

こころの中では殴ってはいけない、殴ってはいけないと、何度も自分に言い聞かせるのだが、身体が勝手に動いてしまう。

 

気が付いたらいつも、母親に馬乗りになって殴りつけていた。

 

母親を殴っても、警察は来ない。

 

それなら刑務所に入れられることもなく、安心して殴れる。

 

泣き叫ぶ母の声を聞いていると、余計に興奮してきた。

 

母親を殴りつけている時、ふっと、自分の中に父親を感じる時があった。

 

興奮すると、最後には自分は自分なのか、自分は父親なのかよく分からなくなった。

 

その証拠に、冷静になった時、母親がよく彼に、「私を殴っている時のあんたは、あんたの父親にそっくりや」と言った。

 

自分もそうだと思った。

 

施設でストレスを溜め、帰りに甘いものを食べて川に石を投げ入れ、景色を見て歌を歌い、母親に暴力を振るう毎日だった。

 

彼には何の問題もなかったのだが、古川の動きは計算外だった。

 

まさか自分のあとを付けていたとは思わなかった。

 

まさか母親を殴っている時に、入って来るとは思わなかった。

 

しかも、あの大嫌いな看護婦や栄養士と一緒に。

 

彼にはまるで、悪夢をみているような一日だった。

 

母親に暴力を振るう自分を止めるために、古川は顔面を殴った。

 

殴られることには慣れていたから、何とも思わない。

 

父親には何度もビール瓶や一升瓶で殴りつけられたから、あんなパンチは痛くも痒くもない。

 

とにかくあの場では、あの悪魔のような三人組に、一刻も早く帰って欲しかった。

 

そうするには、ちっともこころのこもっていない、嘘の「ごめんなさい」を言うのが一番だ。

 

そのためなら、誓約書でも何でも書いてやる。

 

彼にとって大事なのは、いかにその場を乗り切るかであって、過去のことも未来のことも、彼のこころをわずらわすことはなかった。

 

その夜、彼は久しぶりに夢をみた。

 

大きな海と空を見ながら、大声で歌を歌っている夢だ。

 

「あぁ、気持ちいい!気持ちいい!」

 

目が覚めた彼は、もう居ても立っても居られなかった。

 

昔、青年部のみんなと一緒に行った海にもう一度行きたい・・・。

 

ただその思いだけしかなかった。

 

(明日に続く・・・)

 

今日もブログに来てくれてありがとう。

11月18日

ふるかわひであき

 

どんべんしょ 38

呪いのどんべんしょ 24

 

勉強や大人の言いつけたことはまるで覚えられなかったが、ラジオから流れる歌だけはすぐに覚えられた。

 

あまりにも勉強ができない彼に、小学校の担任は母親に知能検査を強く薦めた。

 

結果はやはり知能に障害があった。

 

中学では障害児学級に在籍し、高校は養護学校の高等部に入学した。

 

子どもの障害と、夫の暴力のダブルパンチのなかで、母親もノイローゼ状態になった。

 

そんな時に、母親の職場の同僚が信心することを薦めてくれた。

 

誘われるままに集会に出かけ、そこに集まった人たちの優しさに心が震えた。

 

今まで孤独だった母親だったが、初めて光が差したような気持ちになれた。

 

母親は入信することにした。

 

教団の仲間に励まされ、母親は離婚も決意できた。

 

しかし夫が納得するはずもなく、暴力はさらにエスカレートした。

 

その状況を見かねた教団の仲間は、教団の信者である政治家の協力を得て、離婚の法律手続きと、母子施設入所の手続きをして、母親の保護に務めた。

 

最後は裁判沙汰となったが、教団の仲間に励まされ、支えられながら、なんとか酒乱の夫と離婚できた。

 

その日から、彼と母親の二人暮らしが始まり、教団に感謝した母親は、毎日欠かさずお題目を唱える熱心な信者となった。

 

酒乱の父親がいなくなったことで、彼は心底安心した暮らしができるようになった。

 

しかし、父親がいなくなってから、彼のドカ食いが止まらなくなった。

 

みるみる体重も増え、糖尿病になるまでにそんなに時間がかからなかった。

 

高等部を卒業した彼は、印刷会社に福祉枠で就職したが、そこでもいじめられ、3か月で辞めた。

 

その後も町工場や飲食店の皿洗いなどを転々としたが、どこも長続きしなかった。

 

毎日家でお菓子ばかりを食べ、ゴロゴロしている息子を何とかして欲しいと、母親が助けを求めたのも、もちろん教団だった。

 

そして、今の施設に入所し、家から通いながら職業訓練と、生活習慣訓練を受けることになった。

 

もちろん、彼は気乗りしなかった。

 

初めて施設に見学に行ったとき、最重度の利用者がおしっこを漏らしていた。

 

壁に頭を何度も打ち付けながら、奇声を発する子供もいた。

 

車椅子に乗せられて、何も言わずによだれを垂らしている男もいた。

 

こんなところには絶対通いたくないと思ったが、母親がそれを許さなかった。

 

担任となった古川という指導員は、二言目には「お前のためや、お前のためや」と言いながら、厳しく食事制限をした。

 

これでは母親が二人いるようなものである。

 

しかも施設には看護婦と栄養士という敵もいた。

 

看護婦には定期的に血液検査をされた。

 

栄養士はカロリーコントロールだと言って、彼の食事だけ特別に作った。

 

もちろん、味などほとんどない、特別に美味しくない食事だった。

 

それでも彼は施設の中ではニコニコと愛想笑いを続けられた。

 

子供の頃、父親に殴られ続けていた時の、身を護る習慣が、いつまでも抜けきれなかった。

 

父親の前で少しでも嫌な顔をすれば、余計に殴られたのだ。

 

自分より強い相手には、嘘笑いを続けるのが一番良いのだと学んでいた。

 

もちろん、その反動は必ずある。

 

何とも言い難い怒りの感情が沸き上がって来るのを押さえられない。

 

その怒りの矛先は母親に向けられた。

 

あんなに大嫌いだった父親と同じ仕打ちを、母親にするようになっていた。

 

昔と同じように、母親が台所の隅で泣いている姿をみると、もう、何もかもが嫌になってきた。

 

そんなイライラした気持ちも、甘いお菓子を食べたり、ジュースを飲むことで抑えられた。

 

彼は一人でぶらぶら歩くことを好んだ。

 

誰かといるよりも、ひとりでいることの方が楽なのだ。

 

施設で愛想笑いを続けた反動は、送迎バスを降りた瞬間に彼を支配した。

 

どうにもこうにも、イライラして腹の虫が治まらなかった。

 

なんで俺はあんなキチガイどもと一緒にいなければならないんだ。

 

印刷会社に務めていた時、いじめられてイライラした彼は、その気持ちを抑えきれず、帰り道に、行きずりの女性を殴りつけて、逮捕されたことがある。

 

女性を殴ってすぐに、近くにいた人達に取り押さえられ、警察に突き出された。

 

相手の女性が優しい人で、彼が精神薄弱者だと分かると、被害届も取り下げてくれた。

 

しかし、警察では厳しく取り調べられ、今度同じことをしたら、牢屋にぶち込むときつく脅された。

 

心底恐怖を感じた彼は、その日以来、誰にも暴力を振るわなくなった。

 

たった一人、自分の母親を除いては・・・。

 

(明日に続く・・・)

 

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11月17日

ふるかわひであき